いつかしぬからきょういきる

受験、日常、生活

夜半

夜、午前2時。僕はこの時間に散歩をするのが好きだ。誰もいない線路沿いの道。ひんやりとした空気が肌を撫でる。時が止まった空間を自分一人だけのものにしているような気分になる。僕はこの一人ぼっちの空間で歌うのが好きだ。昼の世界では歌っているのを人に聞かれると気まずくなって歌うのをやめてしまうか、聞いた人間を殴り殺してしまう。もう5人は殺してしまった。しかし裁判では正当防衛と認められて数ヶ月の執行猶予で済んでしまう。毎回。僕は殺めてしまった人々の名前を忘れないように右手の甲にマジックペンで書き記している。でも流石に6人目はやばいらしいので歌うのは夜だけにすることにした。僕の喉から奏でられる"とっとこハム太郎"が暗闇に響く。サビを歌っている時だった。

「俺も〜!」

どこからともなく男の声が私の耳に入り込んできた。

聞かれてしまった。

殺さなければ、と思った。6人目はまずいとかそういう段階をすっ飛ばして僕の心には殺意以外の感情は消えていた。歌を邪魔されたからではない。聞かれてしまったからだ。

誰だ!と叫ぶとゴトッという音と共に黒い影がスッと消えるのが目に入った。僕はその方向へ一目散に走った。影は自分が思っていたよりも遅く簡単に追いついた。

「タイショーくん!?」

その影の正体はヘルメットを被ったハムスターだった。彼はこんな遅い時間にもハムちゃんずのために夜勤をしているらしい。

「6人目じゃなくてよかった。」

マジックペンでタイショーくんと書いた。